改訂:2017.01


かぜですか?

”かぜ”って何ですか?
診察後、『“かぜ”ですか?』と聞かれるのが本当は一番困るのです。医学的な意味の“かぜ”は上気道炎です。 咽頭炎・喉頭炎・副鼻腔炎(蓄(ちく)膿(のう))などはさらに“かぜ”を詳しくした病名です。しかし社会通念上の“かぜ”は咳や鼻水がある病気全部を言い、 さらに広くは、“軽い病気”、“うつる病気”、“ウイルスが原因の病気”という意味でも使われます。 ですから嘔吐下痢症でも“(お腹にきた)かぜ”、結膜炎でも“かぜ(かぜから眼にきた)”と言うことがあるわけです。

『“かぜ”ですか?』と言われるあなたの“かぜ”の定義は何でしょうか?本当はそれがわからないと答えようがないのです。

”かぜ”は万病のもと?
 “かぜ”をひいていたのに無理をしていた為に肺炎になる、ということはあります。“かぜ”に限らず、病気の治療はまず安静・栄養・保温です。その次に薬です。 ですから“かぜ”をこじらさないように安静・栄養・保温は大切です。こじらすと“かぜ”は万病のもとになるわけです。
 しかし逆に“万病”は“かぜ”として始まります。肺炎や結核の症状も“かぜ”として始まります。肺炎や結核も“かぜ”と一緒ですし、 急性肝炎や白血病のような重症な病気も最初は“かぜ”と思われています。

 病気の正しい診断(病名をつける)には診察と検査・経過そして治療に対する反応をみるのが必要です。 だから初診のときに“かぜ”ですか?と聞かれると本当は「まだわかりません」としか言えないのです。

それでも病名が知りたい!
 以上のことから「“かぜ”です」と言うのは「病気です」と言っているのと同じ程度の意味ですので、私からは「“かぜ”です」とはほとんど言いません。 説明するならその“かぜ”のさらに詳しい説明をするようにしています。つまり「のどが赤い」なら“咽頭炎”、 「声がかれた」ら“喉頭炎”、「痰がからんでいる」は“気管支炎”、「水鼻が出ている」と“鼻炎”、「黄色のねばい鼻」なら“副鼻腔炎”、 「冬、周りではやっている」なら“インフルエンザ”、「下痢」なら“急性腸炎”、「嘔吐と下痢」なら“嘔吐下痢症”という具合です。

心配ないでしょうか?
 この質問も答えるのに一言ではすみません。何が心配なのかがわからないからです。死ぬことはないとか、入院は必要ないとかなら答えられますが、 漠然とした“心配”には答えようがないのです。そもそも“心配ない”と言われたとしても、高熱でフーフー言っている子供の心配をしない親はいません。 医者としては心配する暇があったら看病をして欲しいと思っていますので、家庭でしなければならないことは何かを聞いてみて下さい。

 夜間・休日などで心配でどうして良いか困る時は、#8000に電話してアドバイスを聞く方法もあります。 #8000ではベテランの看護師が対応してくれますので、子供の様子を話して相談ができます。
 急患センターに電話すると診察できる病院を教えてくれますが、こちらは事務員が応対しますので、病院にかかる必要性の有無、家でどうしたらよいか等の相談はできません。


『風邪(かぜ)の治し方』
いわゆる“かぜ”は普通放っておいても治ります。(放っておいても治るものが“かぜ”と言った方がより正確ですが)
 ではなぜ治療するのでしょうか?それは早く治す、楽に治す為です。ですから元気ですっと治るものには治療はいりません。その治療ですが、養生と薬とがあります。  

養生(ようじょう)
昔から言われている養生のポイントは安静・保温・栄養です。私が医者になりだちの時、大先輩の先生は“かぜをひいたら風呂に入るな”と言っていました。 これは昔の風呂は母屋から離れた所にあり、すき間風の入る風呂から寒い庭を通って家に入ると体が冷えすぎるとの事と思います。今は屋内に風呂があるので、 熱が出ていても元気なら入浴してかまいません。熱がないならなおの事、お風呂で体を温めて、蒸気を吸った方が早く治ります。
保温
寒がるようだと温めにしてやりますが、39℃以上熱があるようなら逆に少し冷やしてやります。高熱があるのにどんどん温めていると、さらに体温が上がり 、熱性けいれんが起こることもあります。解熱剤を使うということは体の内から冷やすことですから使い過ぎないことが大切です。
 ただし汗をかく程あたためると体力を消耗し、脱水になりますので気をつけましょう。

栄養
熱がある時は胃腸も弱まりますので、離乳食程度の消化の良いものにします。体を冷やすアイスクリームや、じんましんの出やすいチョコレートはやめておきます。 吐いたりほとんど食べない時には糖分が大切ですし、汗が多ければ塩分も必要です。食欲は落ちますが無理に食べさせないようにします。無理に食べさせて吐かれるとかえって悪くなります。

安静
元気で走り回る子は病気が軽いということですが、外出はしないようにしましょう。中高年や大人では休んで寝ていなくてこじらすことが多いようです。 さらに肉体だけではなく、精神的な安静も重要になります。最近の研究では精神的なストレスが強いと病気に対する抵抗力が低下することが証明されています。
 治療と言えば薬が主で、養生という言葉は最近ほとんど死語となっていますが、本当は病気は養生こそ一番大切です。ですから小児科医は母親が主治医と考え、家庭での養生に期待をかけています。


薬物療法の原則は自然治癒力を邪魔しないことです。熱を上げて抵抗力を強めているので、解熱剤は使いすぎないこと。抗生剤は細菌には効きますがウイルスには効きません。抗生剤を無駄 に長期に使うと、体に必要な正常にある細菌が変化し、かえって薬が効かない細菌が増えてくることがあります。 強い咳止め(鎮咳剤)ばかり使うと痰が出なくて肺の音が悪くなることがあります。薬の副作用で下痢をしたり、眠くなったり、ふらふらしたり、手がふるえたりすることもあります。 子供では少ないのですが、喘息持ちの人では薬で発作が誘発されることがあります。直接の副作用ではありませんが、 大人にもらっていた薬をかってに子供に飲ましてトラブルを起こしたり、幼児が誤って口にいれたりすることもあります。

とはいえ
医者にかかって薬を飲んだ方が良い場合もあり、こじらさないためには 養生に頼り過ぎないことも大切です。



*田村こどもクリニック*
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