●出産&母乳育児体験報告 (その1 妊娠・出産編) ●●●

バースサポートふたつき 出張助産師 今村朋子

 私は、開業助産師であり、一児の母です。普段の活動の中で、母乳育児とは、妊娠・出産という一連の流れの中から、自然につながっていくことを感じ、母乳育児だけを切り離して語れるものではないと考えています。
 そんなわけで、今回、母乳の会の皆様に、私の出産体験を報告する機会が持てたことを、とてもうれしく思います。
 私はアニタ助産院で出産しました。助産院や自宅で出産する人は1%(高知はもっと少ないかも・・)という世の中ですので、めずらしい選択のように感じるかもしれません。しかし、開業助産師の私にとっては、心から安心でき、私らしく産む場所として、助産院を選び、私のお産を見届けて欲しい人として、助産師を選んだことは、とても自然な選択でした。
 助産師として、これまでたくさんのお産に出会ってきましたが、自分の妊娠は、それを身をもって体験できる、またとないチャンス!お産の痛みも何もかもひっくるめて、貪欲に、妊娠・出産の出来事すべてを味わい尽くしたい!と感じていました。
 もちろん医療施設ではない場所でのお産ですから、薬や機械に頼らなくても無事に産める、健康な体を作っておくことが、私自身が果たさなければならない最大の責任でした。食事に気をつかい、坂道を歩き、体操をしたりお灸をしたり、これほどまでに自分の体に、真剣に向き合ったことはありませんでした。おかげで小太り(?)だった体は、すっきりと軽くなり、出産直前の頃には、妊娠前より格段に健康で、気持ちいい生活を送りながら、お産を楽しみにする自分がいました。
 ちょうど妊婦健診日の夜中、ついに陣痛が始まりました。私は、「いよいよ来たか〜」と、わくわくしながら掃除や洗濯をして過ごし、午後から助産院に行きました。そして健診の後、助産院に新しくできたばかりの大きなお風呂に試しに入ってみることにしました。すると、腰の痛みがす〜っと和らいでいく、なんともいえない心地よさでした。その後、お風呂から出ると、ずし〜んと強い陣痛に変わり、そのまま入院することにしました。お湯の力ってすごいな!と、この時に実感しました。
 それからも、陣痛は強くなったり弱くなったり緩やかに変化し、私は自然の流れに任せて眠ることにしました。眠りながら、陣痛がきたら体を起こし、おさまったら、また、とろとろ〜っと短い眠りにつく。「痛い」のに「気持ちいい!」そんな不思議な感覚で夜はふけていきました。陣痛がどんどん強くなると、今度は、横になるよりも体を起こしたくなり、座ったり、はしごにしがみついてしゃがんだり、トイレに行ったり・・・と、体の感覚に身を任せながらいろんな姿勢で過ごしていました。
 そして助産師が「今、綱にぶら下がったら(赤ちゃんが)下がるかもしれんねえ・・」とつぶやくのを聞き、天井の梁にたれ下がった産綱(さらしの腹帯をつるしたもの)にしがみつき、何度か陣痛を過ごしました。綱に身を任せて腰の力がふわーっと抜けると、赤ちゃんが降りてきて、次は自然にいきみたい感覚が出てきました。産綱という、産む姿勢を最大限に活かすために昔の人が考えた叡智って、ホントに理にかなっているということを実感しました。
 そして夫の膝に座って自然にいきんだ後(分娩台はないのでお布団の上です)、最後はよつんばいで膝をついて夫にしがみつき、体を伏せたり起こしたりして、赤ちゃんが出てくるスピードを調節しながら、自然にすべり出てきたわが子を受け止め、抱き上げました。このときの感動と、ホカホカ暖かくてやわらかい、わが子の感触は、今でもはっきりと覚えています。
 今回の出産は、お産の時の姿勢の影響を強く感じる体験でした。そういえば、当然のことかもしれませんが、自然の感覚に従ってお産していると、産まれるまでの間に、仰向けの姿勢になったことは一度もありませんでした。WHOの59カ条「お産のケア実践ガイド」でも、出産中の仰向けの姿勢は、お母さんにも、お腹の赤ちゃんにも不利なことばかりで、「明らかに害があるのでやめるべきこと」と書かれています。母乳の会の皆様であれば、WHO/UNICEFの「母乳育児成功のための10カ条」はご存知だと思いますが、この「お産のケアガイド」についてはどうでしょうか?母乳育児の前の重要なプロセスとして、こうしたガイドラインをもとに、産む人とケアする人が「お産」についても、母乳の会などの場を通じて語り合えたらいいなあと思います。
 さて、こんなお産を体験した私の母乳育児は、どうなったでしょうか?次回、おっぱい編の報告をさせてください。

引用文献 :WHO; Care in normal birth: practical guide,1996. 戸田律子(訳):WHOの59カ条 お産のケア実践ガイド,農山漁村文化協会, 1997.

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