◆”小児科外来での母乳指導の成果” 演者 田村保憲(田村こどもクリニック) 発表学会 高知県医学会 06.8.21 於高知市 日本小児科医会会報2006.32号より転載 ◎はじめに 核家族・少子化の現在、小児科医が育児支援をするべき、との提言に異を唱える小児科医はまずいないであろう。母乳育児支援は単に母乳量を増やすだけではなく、母乳を飲ませられる環境や安定した母親の精神状態への配慮も必要であり、私は育児支援の最も大切な領域と考えている。当院では助産師と母乳指導をしているが、最近5年間(2000-2004年生まれの児)の結果をまとめてみた。 ◎指導の対象、母乳増量の方法、 母乳指導は母親が母乳育児を希望していること、児が母親の乳首を吸ってくれること、の2点が前提条件である。従って、”人工ミルクのみの児”は、次の子からということで除外し、まれにいる”母乳を飲ましたくない母親”も原則的に母乳指導の対象にしていない。 2000-2004年に生まれて、当院を受診した0才児全員に栄養法を聞き、混合栄養児には母乳増量の方法を教え、月1回開催している母乳教室への参加を要請した。母乳増量の方法は1.1日10回以上の直接哺乳、2.母親が水分を十分にとること、3.母親が昼寝をすること、の3点である。母乳不足時の人工ミルクの足し方は、1日最低必要量を、 1回量は最大に1日回数は最少に指示した。その理由は人工ミルク自体が悪いのではなく、児が人工乳首になれて母親の乳首を吸わなくなる(乳首混乱)のを避ける必要からである。 ◎結果と考察 この5年間の当院初診0歳児1550人の初診時月齢は平均2.9ヶ月、母乳率は47.7%、混合栄養は34.2%、人工ミルクのみは17.8%であった。一般の小児科診療所に比べて初診月齢が早く、母乳率も少し高いと思われる。その理由は、当院が母乳指導をしており、母乳育児を希望する母親には出産後できるだけ早く受診するように言っていること、当地(南国市)が小児科での0ヶ月健診無料券を発行していること、市内の産科医院が”1ヵ月健診は小児科に行くように”指導してくれていること、助産院・自宅出産の児が生後早期に来院すること等によると考えている。 初診時混合栄養で、母乳教室に参加した母親の内、経過不明4人を除く257人中母乳栄養のみになったのは219人・85.2%、人工ミルクを中止できなかった(混合のまま)のは28人・10.9%、人工ミルクのみになったのは10人・3.9%であった。この母乳率は”赤ちゃんに優しい病院(BFH)”認定病院の1ヵ月健診時の母乳率とほぼ同じである。私達小児科医は、母乳率は出産した産科の責任にしがちであるが、上記の事実からは出産した産科の母乳指導の如何にかかわらず、小児科外来で適切な母乳指導をすれば母乳育児は十分可能となることを示している。 この母乳のみになった219人が人工ミルクを中止できるまでの期間は初診日から1週間以内が75人・34.2%、8-29日が70人・32.0%、1-2ヵ月が53人・24.2%、3ヵ月以上は21人・9.6%であった。1週間以内というのは人工ミルクが全く不必要だった母親で、8-29日かかった方は3-4回の受診でちょっとだけ努力・工夫が必要だった母親である。すなわち乳児健診で”人工ミルクはいらないよ”と一言ってあげるだけで3割の母親が母乳だけになり、少し母乳指導をすればさらに3割は人工ミルクを中止できるということである。 多くの母親は母乳育児を希望しているにもかかわらず、必要な助言・処置を受ける機会はほとんどなく、乳児を育てる楽しみ・幸福感を持てずに難儀している。小児科医が外来診療でちょっと母乳について聞いてみるだけで救われる母親は案外多いものである。 ◆“ソフロロジー式分娩の取り組み” 演者 奈路理佳(くぼかわ病院) 発表学会 日本ソフロロジー法研究会 04.10.30 於東京 くぼかわ病院院内研究発表会 05.2 於くぼかわ病院 くぼかわ病院は2002年に”赤ちゃんにやさしい病院”の認定を受けている。2003年5月からソフロロジー式分娩を導入した。産婦64名中87%が”良いお産ができた”と答えている。退院後の育児に対する思いでも”楽しい”と答えた者が32%、”大変だかなんとかなると思う”と56%の者が答えている。このことは母性の醸成を促し、育児への自信となり、母乳哺育へと受け継がれていくはずである。 |