●私の出産体験報告〜自宅出産体験記〜●●●
                      お産サポートよつば助産院   助産師 藤原 恵
私は、昨年春に開業したばかりの出張開業助産師です。今年の1月3日にわが子(一平)を実家で出産しました。私にとって、それはそれは「いいお産」となりました。自宅出産が誰にとってもいいお産とは限りませんが、今回はこんなお産もあるんだということを母乳の会の皆様にお伝えしたいと思います。
 私が実家でのお産を選んだ理由は3つありました。1つ目は、何より自分が一番安心してリラックスできる場所であること。2つ目は、私がこれから出張開業助産師として支えていきたい日常の中でのお産を、せっかく自分にもお産できるチャンスができたのだから思う存分体感したいと思ったこと。そして3つ目は、私にとって大切な家族とともにわが子を迎えたい、私がこれから支えていきたいお産の姿を家族にみてもらいたかったことです。
出産予定日よりも2週間以上早く陣痛がはじまり、気分はまだお正月で心の準備もお産の準備もできていませんでした。
当日は家族みんなでバタバタと部屋の準備をすませた後、バランスボールに座って陣痛を逃しつつ、あべかわ餅を食べながらテレビで箱根駅伝を見たりしていました。5分以内で規則的にくる陣痛もそれほど苦痛とは感じず、日常の中でリラックスして自然に動くことができたので、いつの間にかお産は進行していました。そして住み慣れた場所で大切な家族と友人、信頼できる助産師に囲まれてわが子を迎えることができ、自分の身体の劇的な変化とわが子の生まれようとするパワーも思う存分味わえました。
家族でわが子を迎えたいという私の希望を尊重してくれた助産師はみごとに黒子に徹し、静かにあたたかく寄り添ってくれていました。生まれる直前に私と夫の手をわが子の頭に添えてくれ、次の瞬間一平が私たちの手の中につるんとすべり出てきてくれた、そんな感覚でした。また、お産では自分が大切にされているという実感が常にありました。腰をさすってくれたみんなのあたたかい手が本当に気持ち良くて嬉しくて、その場にいるみんなで陣痛の波に乗っているような何か一体感のようなものも感じ、それが産む力になっていたように思えます。私、幸せ者やなあとつくづく感じました。
家族3人で川の字になって眠ったその日の夜、一平がすやすや眠っている横で、今までおなかの中で動いていたわが子が目の前にいることの不思議さと嬉しさで夫と二人なかなか眠れず、また何ともいえない幸せも感じました。夫もお産に立ち会って誕生を見届け、その後も家族が離れることなく日常の中にわが子が仲間入りしたことで、何の気負いもなく自然と一平の育児に関わってくれていました。
誕生の時から母親と離れることもなく、そしてお腹にいるときからよく知っている日常のざわめきの中で過ごした一平は実に穏やかで、安心しきっているように思えました。お乳もしっかり飲んでよく眠り、おかげで産後の疲れも癒されました。母乳で育てたいという強い気持ちは妊娠中からありましたが、こんな環境の中だからこそ母乳育児もスムーズにできたのだと思います。
 家でお産をするということは、産婦にとっても子にとっても安心しリラックスできる環境ではありますが、それをお世話する人は本当にたいへんだろうなあと改めて実感しました。私の場合、母には本当に感謝しています。「子を産んで親のありがたさを知る」「女性は、妊娠・出産を通してもう一度母親を必要とする」と言われますが、本当にその通りだと思いました。実家で過ごした一ヶ月間、一平を通じて私と母も久しぶりにゆっくり親子の時間が持てたように思います。今となっては貴重であたたかい時間でした。
今まで、他の産婦さんたちのお産に関わる中でも一人ひとり色んなドラマがあると感じてきましたが、私のお産もなか
なかドラマティックでした。ふり返ってみると微笑ましい思い出ばかりで、今でもステキなお産だったなあと思っています。それもこれも、支えてくれた家族と助産師、そして私の身体に宿ってくれ、小さな身体で大きなパワーを持って生まれてきてくれた一平のおかげです。感謝。また、お産の後で夫も母も「助産師っていい仕事やね」と言ってくれたことは何より嬉しいひと言でした。
 「家でお産をした」というと、すごいねとか珍しいねとか言われますが、お産は女性の生理現象だと考える私にとっては決して特別なことではなく自然な選択でした。しかし、どんな人でもお産のリスクはゼロではありません。そんな中で医療介入をせずに家でお産するということは、自分の身体に責任をもつという覚悟が必要でした。その分、妊娠中から自分の心身に向き合い健康な身体づくりをすること、そして信頼できる人たちや安心できる環境の中でお産を迎えることが何より安産につながることも身をもって経験することができました。産む場所がどこであれ、産む本人にとって一番安心できる場所であることが「いいお産」には不可欠です。いいお産は健やかな母乳育児にもつながります。女性ができるだけ早い時期に自分の身体に向き合い、産み方・産む場所を考えることができるような情報提供やサポート体制がもっともっと必要だとあらためて感じています。



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