● 出産&母乳育児体験報告 (その2 おっぱいスタート編) ●●●

バースサポートふたつき 出張開業助産師 今村朋子

 会報7号では、助産院での出産体験について報告しましたが、さて、その後、私の母乳育児はどうなったのでしょう・・・?今回は「おっぱいスタート編」ということでその続きを報告させていただきます。
まず、なぜおっぱいで育てるのか・・・という理由ですが、「本能」とでもいいましょうか、自然なお産を選んだ私にとって、母乳で育てるということはあまりにも当たり前の行為で、子どもにとってもあたりまえのこと・・・という思いが強くありました。母乳には様々な利点がありますが、そんなことよりも(それも大事だけど)、母親自らのからだ(子宮)を通じて、新しいいのちを受け継ぐという作業は「胎児が子宮から出れば終わり」というような簡単なものではなく、   今度は自らの血液を母乳という形に変えて、いのちを受け継ぐという使命があるのではないかと感じています。
そんな私ですが、実は、母乳育児に関しては、不安なこともありました。こんなところで自分のおっぱいの話を披露するのもなんですが、小さくて、硬くて、伸びが悪い乳首、乳腺症のしこりだらけの乳房・・・「赤ちゃんがうまく吸えるのかなあ」という心配がありました。さらに妊娠中は、お腹のはりが強く、乳首のマッサージなどの準備が十分にできないまま出産になり※、結局、硬い乳首はそのまま・・・。「これは授乳にかなり苦労するだろう」と覚悟していました。しかし、「吸わせて出ないはずがない」という確信と、「絶対に母乳で育てるぞ」という信念、「母乳育児が楽しみ」という思いだけは強く持っていました。
そして出産・・・。母も子も、初めての授乳。お産を終えて横になったまま、助産師さんに手伝ってもらいながら、おっぱいを吸わせた時の、なんともくすぐったいような気持ちいい感覚は忘れもしません。私の心配をよそにわが子は「かぷり」とおっぱい吸いつき、ぐいぐいと吸い始めたのです。「ちゃんと吸ってくれた!」と安堵の気持ちでいっぱいでした。
 しかしその後から、試練が・・・うまくいかない!!!自分でやると、つるっ、つるっと、小さな乳首をうまく吸わせることができず、悪戦苦闘。乳首はあっという間に傷だらけでした。はじめにうまく吸ってくれたのは、助産師さんの見事な技のおかげだったのね・・・と後になって気づくのでありました。「ポジショニングとラッチオン※」、これさえうまくいけば乳首に傷ができるはずがないと、これまで助産師として授乳のお手伝いにはそこそこ自信を持っていたはずの私なのに・・・です。自分が吸わせてみてはじめて気づくことばかりで、助産師として、授乳がうまくいくように他の人のお手伝いをする場合と、自分が吸わせる場合では、赤ちゃんの口の見え方や乳首の位置の感覚が結構違うことを感じました。
それからはホントに試行錯誤でした。そんな時、昔、我が家で飼っていた犬が、子犬5匹をくわえて次々と並べ、ころりと寝そべり、見事なポジショニングでお乳をあげていたのを思い出しました。「え〜い、私はたった一人の子どもの乳をあげるだけなのに〜!モモ(犬の名前)に負けてたまるか〜」と奮起!一晩中いろんな吸わせ方を試しているうちに、翌朝には何とか、私と赤ちゃんにとって一番ぴったりとくるやり方を見つけ出しました。
私がお世話になった助産師さんは、初めての授乳のときに手伝ってくれた以外は、あまり手は出さず、「もーちょい上かな」とか、「いい感じ」と、口だけ出して見守ってくれるタイプの人でした。それがとてもよかったと感じています。これまで私は助産師として、余計な介入をしすぎて、母親自身が試行錯誤する時間や、自分でできるという自信までも奪っていたかもしれないと反省しました。育児って、何よりも自分なりのやり方をみつけていくプロセスが大切なんですよね。
そして、赤ちゃんとの生活だけに専念できる、誰にも私たち親子のペースを邪魔されない助産院の環境が、私の母乳育児をスムーズにしてくれました。ず〜っと同じベットで過ごしていると、子どもはお腹がすいたら「あんあん」と小声で訴えるだけで、おっぱいがもらえるので、ほとんど泣くことがありませんでした。「赤ちゃんが泣いてから授乳するというのは、遅すぎるサイン」といわれています。赤ちゃんの「お腹がすいたよ〜」のサインをすぐにキャッチしてすぐに応えてあげるには、やっぱり母がいつも側にいる以外にないのよねえ・・・、ということを強く感じました。
また、赤ちゃんとずっと一緒に過ごすことは、私自身の体にとっても、とにかく楽でした。出産という大仕事を終えた後は、どんなに元気なようでもやっぱり疲労感が残ります。そんな時、すぐ側にいるわが子に授乳できるのは本当に楽で、どんなに頻繁に授乳しても全然、苦ではありませんでした。これがもし、ベビー室まで行かなければならない状況であれば、赤ちゃんがどんなに遠く感じるだろう?と、考えただけでぞっとします。赤ちゃんに優しい環境は、きっとお母さんにも優しいのです。健康な赤ちゃんとお母さんにとって、ベビー室なんて、なくなればいいのに…と心から思います。   
そんなスタートを切った私でしたが、1週間後には、乳首の痛みもなくなり、楽々おっぱいライフに突入することができました。それからもう1年・・・。うちの子は、まだまだおっぱい大好きっ子です。また機会があれば卒乳までの体験を報告させていただきます!(何年先になるかわかりませんが・・・)
※皆が妊娠中のマッサージをしなければならないわけではありません、自分にあったお手入れを相談してくださいね
※授乳姿勢(抱き方や赤ちゃんの位置)と吸着(吸い付くこと)の意味です



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